【弘法筆を選ばず】
~達筆で知られる弘法大使(空海)ならば、どのような筆でも素晴らしい書が書ける、
転じて優れた技量を持つものは道具の優劣に左右されないという意味~
さほど日常生活で使う機会も無い言葉ですが、
改めて聞くと、こう思ってしまうのは筆者だけでしょうか。
え、普通に良い筆選べばよくない?
と…。
っていうかむしろ、空海が3本入り100円の筆使ってたら嫌じゃない?
と…。
筆者、弘法大使でもなければ、もちろん書の達人でもなく、
修理に関してもまだまだ修行中の身であります故、バッチリ道具選ばせて頂いております。
こちらは筆者が普段、ソールをはがす際に愛用しているナイフ。
HYDE TOOLSというアメリカの工具メーカーから出ている【Made in USA】のナイフでございます。
御先輩方がアメリカ修行の際に、現地で購入した物を譲り受けました。
STUMPTOWNのリペアスタッフのほとんどが、日本製の革切り包丁を使用していますが、
Made in USAという響きと、見た目のかっこよさに惚れて、
というなんとも安直な理由で、筆者はこのナイフを使っております。
さて、先日このナイフを研いでいるときの事、
ふとブレード部分に目をやると、よからぬ事に気づいてしまいます。
いや、ずっと気付いてはいたのですが、気づかないふりをしていた。
というのが正しいでしょう…。
錆びですね…。
なにしろこのナイフ、素材が「カーボン・クロム・バナジウム・スチール」
とかいうなんかカッコいい名前の素材でできていて、強度は抜群なのですが、
結局はスチール、鋼ですね。錆びは避けて通れません。
と、いうわけで!
今回はこのサビを落として、ナイフを綺麗にしてみた!
というお話でございます。
まず用意するのはこちら。
台所 浴室 洗面所 そしてカーボン・クロム・バナジウム・スチールの磨き洗いに!
どのご家庭にもあるでしょうクレンザーです。
これをつかって、ブレードの錆を落として行きたいと思います。
まずは、錆びのついているブレード部分に、クレンザーを大胆に振りかけます。
こんな感じです。
そして、ナイロンたわしに少量の水を含ませ、
ひたすら磨きます。
ゴシゴシ、ゴシゴシ…。
磨いていると、クレンザーでブレード表面が研磨されて、
錆びや汚れが茶色く固まって浮き上がってきます。
こんなになるまで放置してしまった事を反省しながら、
黙々と磨き続けること5分…。
ある程度表面が綺麗になってきたので、
水で軽く洗い流して、残った水滴を拭き取ると…
どうでしょう。
もはやとりきれなくなってしまった汚れもありますが、
ちょっと綺麗になったのではないかと思います。
さて、一応これで当初の「錆を落とす」という目的は達成されたわけですが、
ここで、皆様は下記の現象をご存知でしょうか。
「掃除ってやり始めるまでは面倒くさいけど、いざやり始めるとなんか止まらなくなっちゃって、
なんやかんや朝の5時になってて、翌日めっちゃ眠い現象」を…。
恐ろしいですね…。
言わずもがな、筆者はこのとき既にその現象に陥ってしまっていました。
この現象に陥ってしまった者をとめる方法はもはやありません。
取り憑かれた様にホームセンターへ向かいます。
そして用意したものがこちら。
耐水ペーパーです。
もうお気づきの方もいるかもしれません。
そうです。光らせたくなったのです。
以前、福井県は越前市にある武生の鍛冶屋さんに、
料理包丁を買いに行った事があります。(当時は三重県在住でしたので、車で往復6時間かけて行きました…。)
そこの職人さんに、こう言われたのを今でも覚えています。
「日本の男には今も武士の血が流れている。
だから今でも、男は刃物の光が好きなんですよ。これは仕方ないんです。」
そうです。仕方ないんです。
目の前にナイフがあったら、光らせたくなるんです。
何故なら私には、武士の血が流れているから…。
さて、話がだいぶ脱線しましたが、戻しましょう。
耐水ペーパーには番手があります。
数字が小さいほど目が粗く、大きいほど目が細かい。
今回用意したのは「#80」から「#15000」までの計14種類。
これを使って、番手の小さい物から大きい方へ、繰り返しひたすら磨いていきます。
気が遠くなるような果てしない作業ですが、
意外とこれが楽しかったりします。
まるで空海が心を研ぎ澄ませ、無心で墨をすっているかのように、
渋谷の空海は都会の喧騒から離れ、清らかな心で刃を磨きます。
うるさいですね、すみません。
ゴシゴシ、ゴシゴシ…。
1時間ほど磨いていたような気がします…。
そんなこんなで#15000のヤスリがけが終わり、
最後にブラシで軽く磨いてあげた結果…
こんな感じに仕上がりました。
うーん、どうでしょう。
少し細かい傷や摺れが、残っている事が悔やまれます…。
でも写真じゃ分りにくいですが、結構光ってるんです。
試しにお店のショップカードを映してみるとこんな感じ。
鏡のようにとまではいきませんでしたが、
お気に入りのナイフが綺麗になって、筆者は満足げな笑みを浮かべております。
後々知った事にはなりますが、今回行なった鏡面仕上げ、
表面のキメを細かくする事で、錆びの防止にも繋がっているらしいです。
さて、今回はナイフの錆び落としから、簡単な鏡面仕上げについてご紹介してみました。
もしご家庭の料理包丁が錆びてしまった場合は、是非参考にしてみてください!
と言いたいところですが、最近の一般家庭用の包丁は、ステンレス。
「Stain-less」の文字通り、錆びる事はほとんど無いみたいですね…。
とはいえ我々日本男児には武士の血が宿っていますから、
もはや説明不要なその刃物の魅力に取り付かれた際は、是非参考にしていただきたく思います。
最後に…
書の達人、弘法大使こと空海、
実はめちゃくちゃ筆、選んでたらしいです。