CRAFTSMAN×CRAFTSMEN Vol.3 後編/岩切 剣一郎

Craftsman & Craftsmen

こだわりと誇りを持ち日々仕事をしている方達と、
STUMPTOWNプロデューサーである菊池氏との対談
職へのこだわりや情熱をお尋ねしながら、ブーツとの関連性を探りつつ
お互いのクラフトマンシップについて語り合う。

CRAFTSMAN vol.3
カリフォルニア工務店 クリエイティブディレクター/岩切 剣一郎
後編 | 前編

前編ではお互いのクリエイションについて話を展開して頂いた。
扱っているモノこそ違えどライフスタイルには欠かせないモノ同士、それぞれのこだわりの部分や考え方に接点がある事が必然である事が再確認できたが、正直接点の近さに驚いた。
後編は、ブーツや取り巻く環境について話が展開されていく。

菊池:
岩切さんが一番初めに履いたブーツって何か覚えてます?
岩切氏:
高校生の頃にドクターマーチンを履いたのが一番初めのブーツですかね。
バンドブーム真っ只中だったので、高校生の時にそのブームに乗っかってバンドをやっていたんですよ。当時、宮崎では中々ドクターマーチンが見つからなく、何とか探して購入しました。
菊池:
ドクターマーチンですか。いいですね。あの頃はバンドやっている人達の間でUKファッションがかなり流行ってましたしね。ジョージコックスとかもその代表ですよね。まさにドクターマーチンはイギリスのあのカルチャーと共に育って来たブランド
ですからね。
岩切氏:
ホントすごい勢いで入って来ましたよね。ワークブーツとしては、RED WINGのアイリッシュセッターを履いてましたね。
菊池:
いいですね、アイリッシュセッター。きっかけはやっぱりアメカジですか?
岩切氏:
その通りです。表現が難しいですが、正直ブーツとしての認識よりアメカジファッションの延長線上で必然的に選んでいたのがアイリッシュセッターでした。ファッションの一部というか。19歳か20歳頃だった気がします。
菊池:
もうそれこそアメカジ全盛期の頃ですね。今は変化球というかアメカジをベースに少し崩したスタイルに変化してきていますが、あの当時は真っ直ぐでしたね。
岩切氏:
ど直球でしたね。苦笑。漠然とアメカジってくくってますけど、東海岸のカルチャーとはまた違いますよね?
菊池:
そうですね。東海岸はヨーロッパのカルチャーの色が多少なりとも影響されているイメージです。洗練されているというか。アメカジは北米の中心より西側なイメージがありますね。まさにリアルワーカーのカルチャーといいますか。
岩切氏:
確かに、ビジネスマンではないですね。これはポストマンですよね?
菊池:
はい。やはり今日本で多く根付いているブーツはリアルワーカーに向けて作り込みしているプロダクトが多いですよね。このポストマンもその名の通り郵便局員に向けてのプロダクトとして有名ですしね。リアルワーカーのカルチャーとの密接な関係はこの先もずっと切っては切れないものだと思います。必要なプロダクトとして。

ブーツに触れたあの頃をお互いの見てきたものが繋がっていることが垣間見れた中、ポストマンを皮切りにセミドレスの背景や今回のコラボレーションの話へ展開されていく。

菊池:
このセミドレスは戦後、お医者さんが家を訪問して回る時に履かれていたブーツです。あとは、教会に行く時とか、ジャケットを来たり、正装をする時にワークブーツだとカッコつかないということで、このセミドレスを開発したそうです。お医者さんが訪問する時に履くくらいなので頑丈だし、とても足入れも良く馴染みも良いブーツですね。考えられていますよ。
岩切氏:
そう考えるとブーツって、スニーカーに比べると奥が深いでね。もちろんスニーカーにも歴史やカルチャーはありますけど、また違った濃さがありますね。思いが深いというか。
菊池:
今回のコラボレーションも岩切さんの熱い思いから始まっていますからね。
岩切氏:
恐縮です。。
岩切氏:
とにかく僕は建築業界を変えていきたいんです。僕がこう言っちゃうのもおかしいんですけど、カッコいいものが少ない気がしていて。作業着にしろ、履いている靴にしろ。それを僕達がプロデュースする事によって、職人の人達に誇りを持って胸を張ってカッコいいでしょ?ってモノ作りをしている様を、これからを担っていく世代の方達に見てもらいたいなって。そして、カッコいい業界だなって思ってもらい憧れの対象になっていけたらって考えて、菊池さんにご相談させて頂いたところ即答でお返事を頂けたのでとても嬉しかったです。
菊池:
お話を頂いて、光栄でしたし僕も同じような事を靴業界や靴職人に何か一石を投じたいと思っていましたのでとても共感できました。
菊池:
憧れという意味でいうと、アメリカでは軍の人達にダナーを履いてもらっているんですが、まさに子供達の憧れの対象なんですよ。軍の人達がカッコいいという事が浸透していて。日本の自衛隊の人達もカッコいいと思ってくれてダナーを買いに来てくれる事もあるんですよ。やっぱりカッコいいものを真似したいという気持ちは一緒らしく。なので岩切さんの思い描いている建築業界の像に、足元ではありますけど少しでも貢献できたら嬉しいなって思います。ダナーを履いているカッコいい職人さんがカッコいい建築物を作ったらそれは当然カッコいいでしょって思うので。
岩切氏:
完璧ですね。菊池さんとプロダクト開発について話をさせて頂いている時もとてもスムーズでしたね。VERTIGOというモデルをセレクトさせてもらったんですけど。元々あるプロダクトですよね?
菊池:
定番としてあるプロダクトですね。ライフスタイルとしての提案をさせてもらっているブーツです。ハードなブーツだけですとどうしても範囲が狭くなって来てしまうので、ブランドとして今の時代にフィットしづらいので、機能をしっかり搭載させてワークブーツを街でも履けるように、30年ほど前に開発されたプロダクトですね。
岩切氏:
本当に現場で職人達が履けるガチなブーツを作りたかったので、鉄板を入れてもらいました。今展開されているブーツで鉄板入りってあります?
菊池:
:ミリタリー仕様のものはいくつか入っているプロダクトもありますけど、それ以外では初ですね。むしろ日本では初の試みでした。鉄板もそうですけど、ある程度ベースがあるところにカリフォルニア工務店さんらしさを加えて頂きましたね。僕たちでは出来ないエッセンスなので、とても新鮮でした。
岩切氏:
菊池さんにモデルを選んで頂いて、あとは現場での見え方や立ち振る舞っている姿を想像してコーディネートさせて頂きました。元々の姿や機能が理想に近いものだったので、あまりリクエストはあえてしないようにしましたが、トゥの鉄板はもちろんですけど、この真っ黒でサイドゴアがあってという姿がとてもイメージ通りでした。
菊池:
現場での職人さん達は脱ぎ履きが容易に出来た方が良いかなと思い、このモデルを選びました。鉄板入れてガチガチなアウトソールにしてしまうととても重たくなってしまうので、アウトソールも発泡性が良くて軽いソールにして機能性や履き心地を高めました。ある程度はずっと履いてもらいたかったのでリペアも出来る仕様にもしていますし、オイルを塗り込んでもらったりといったようなメンテナンスして履いてもらえれば長年愛用できる仕上がりになっていると思います。割とやらせてもらってしまっていますが、大丈夫でしたか?
岩切氏:
もちろん。バッチリです。水も大丈夫でしたよね?
菊池:
レザーなのでとても強いとは言い切れませんが、オイルを塗ったりしてもらって。例えば、向こうのワーカーの人達は糸の縫い目の部分に昔は油を、近年では目止め剤(シーム剤)を入れ込んで防水効果をもたせたりしています。
岩切氏:
なるほど。目止め剤を塗りこむんですね。

接点が意外なところで密接なところにあり、ある意味必然として実現した今回のコラボレーション。本質を知るお2人はやはり本質を見るところから始まっていた。

岩切氏:
そういえば、このお話をさせてもらってすぐにポートランドの工場も見せてくださって、元々の木こりの職人の人達の足元も支えているという事も伝わったし、現場では職人さんたちの熱が伝わってきて何も心配がなかったです。
菊池:
ポートランドに行かれるって伺ったので、案内をしてあげなさいって現地のスタッフにすぐ話をしました。
岩切氏:
急なタイミングだったのにすみませんでした。。苦笑。
菊池:
いえいえ、行って頂ける機会も中々無いと思うので、良かったです。

本国のアイデンティを目の当たりにし、感銘を受けたと語る岩切氏。STUMPTOWNもそのアイデンティを継承している話題に。そして、ある一つの思いが同じだった。

岩切氏:
向こうのお店では、リペアとかもお店の工房内で行ってましたね。
菊池:
そうですね。お店にも工房があってソール交換とかリペア対応は行なっています。STUMPTOWNにも店舗内に工房を設けているので、対応しています。
岩切氏:
あそこで修行されていたんですね。本物の人達が常にいるっていうお店って日本だと少ないですよね。
菊池:
本国で技術を学び、気持ちのところまでしっかり継承されたスタッフが工房内に常勤しているっていう事がSTUMPTOWNの強みだと思います。環境もそうですし、目で見たり耳で聞いたり手で触れるという全ての感じる部分も実際の現場で学ぶのが職人にとってはスキルアップにもなるし、何より良い経験になって日本に戻ってきてもお客様のお役に立てると思っています。やっぱただの修理屋さんって見られるのも正直嫌なので。
岩切氏:
羨ましい限りです。僕が建築の修行にアメリカに行かせてもらう機会があったら喜んで行きますね。
菊池:
靴屋ってどうしても下のイメージなんですよ、足元なので。それは職人も同様で正直日本だとそこまでの地位では無いんです。ただ、イギリスやイタリアは全くの逆でプライオリティがとても高いんですよ。とてもいい生活もしていますし。前途の岩切さんの思いと一緒で、STUMPTOWNの職人達が本国で学んできた技術と共にプライドを持って工房で作業をしている姿をカッコいいものとして捉えてもらえるように、あえてガラス張りにしています。日本の靴職人の人達のプライオリティを上げて行きたいですね。まさに憧れの職業になれるように。
岩切氏:
本当に共感できます。何か僕に出来る事があれば、またぜひご一緒しましょう。
菊池:
嬉しいですね。こちらこそ是非宜しくお願い致します。
――
靴と家、スケールも内容も全く違うモノだけどライフスタイルを形成しているという意味では同じモノ。さらにそれを支える屋台骨となる職人さん達がいる事も同様。近い将来実現しそうなお2人の思いは全く同じだった。そんな両者が出会うのもやはり必然で、必然から生まれたプロダクトは一切の迷いも無く、逸脱なプロダクトである事は当然であると感じた。

PROFILE

岩切 剣一郎 | 株式会社枻出版社 事業開発本部 建築デザイン事業部『カリフォルニア工務店』 クリエイティブディレクター
「施工の現場」から設計の世界に入り、その後独学で一級建築士に。デスクの上だけでなく、現場経験やサーフィン・バイク・ゴルフ・音楽など幅広い趣味を活かし、クライアント様のご要望を更に多くの”引き出し”で提案した空間づくりを得意とする。
菊池 孝 | STUMPTOWN DIRECTOR
STUMPTOWNのディレクションだけでなく、フットウェアやアパレルのプロデュースも手掛け、イベントの企画立案などにも携わる。
仕事以外の趣味としても家具やオブジェ制作、デザインやペインティングなどにも造詣が深く、その多岐に渡る創作意欲には各業界も注目する。
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