最近お客様の修理をしていてふと思った事があります。
多くの方にとって『靴の修理』って一生涯のうちに何回する事なのか。
私は毎日全国各地から届くさまざまなブーツを、当然のように修理させて頂いておりました。
私たちのメインの修理はブーツになりますが、靴と一口に言っても色々な形があります。
パンプスを履く女性であれば、ヒールの交換などが割と当然のようにあり得る事なのかもしれませんし、
それもしないほうが普通なのでしょうか。
紳士靴であれば、カジュアルシューズであれば… どうなんでしょう。
あっても1回か2回か、なんとなく『0』の方が多い気がしてきました。
時代の流れで、今と昔でも違うかもしれません。
そうなんです。
私たち修理を生業にするものからすれば、当たり前の事も、普通の方にとっては、お客様にとっては初めての事だという事。
何をこいつは言ってるんだって、皆様には呆れられそうですし、
えっ、いまさら??って怒られてしまうでしょうが、
日常の中にある『自分にとっての当たり前』は、誰にとっても当たり前じゃないことの方が多いかもしれないなあと。
ごめんなさい。別に病んでおりませんし、嫌な思いをしてこんな事を考えてしまったわけではありません。
最終的に行き着いたことは、皆様にとって初めてであるブーツの修理、
色々と分からないことが多いはずです。些細なことでも紹介することでいつか誰かの役にたつかもしれません。
こういったブログやSNSで、私たちの毎日の何でもないワンシーンを伝える事も重要だなという思いになりました。
前置きが長くなりましたが、今回はブーツのソール交換のタイミングについて、一例と修理工程を交えて紹介します。
皆様があまり見ることのない修理、そのうえでもあまりないケースを1つ。
写真は修理後の物ですが、それぞれ三者三様のダメージを負ってこちらに来ました。
これはいずれもお馴染み、レッドウィングのモックトゥブーツ。いわゆるアイリッシュセッターと呼ばれるブーツですね。
名前の由来は、このブラックではありませんが、今ではこのシリーズを総称してそう読んでます。
上の2つはソール部分の減り具合もほぼ同じ程度、アッパーの傷み具合も大差ありませんでした。
しかし、上はアウトソール交換で修理させていただきましが、下はオールソール交換でも修理が出来ない状態でした。
なぜかって…
そう。
アッパーとソールを繋ぐ役割であるウェルト(細革)が死んでしまっておりました。
ウェルトを傷めないようにという、アウトソール交換(白いソール部のみの交換)と、
それが難しい状態の場合は、オールソール交換(アウトソール、その上の薄く硬い素材とウェルト部分の縫い直しも含む)、
いずれかをご提案させて頂く事が多いのですが、これではどちらも出来ません。通常は、この部分が残っていればソール交換が可能なんですが、今回は無理でした。
しかし、グッドイヤー製法であるアイリッシュセッター、靴の内部がよっぽどの事になっていなければ、このウェルトごと交換してしまえば大丈夫です。
ただ、こういう状態になるのはレアケースです…。症状としてはそんなに多くはありませんが、
ソールが減っていなければ大丈夫、新しいから大丈夫というほどソール交換は単純ではないのです。
中底に付けられているリブがしっかりと残っておりましたので、新しいウェルトを縫い付けていきます。
この工程を『すくい縫い』と呼びます。製造時は機械で縫われていますが、修理の際は元の穴を外さないように、専用の針と糸を使って縫っていきます。
ウェルトを新しくする工程がゆえに、『リウェルト』と呼ばれます。通常のオールソール交換よりも料金や工期もかかってしまいますが、こういった工程があるからなんです。
この後は、いわゆるオールソール交換の工程。
中モノ(コルク)を詰めて、
中板を貼って、ダシ縫いをかけます
細かいところですが、ソールとウェルトを削っただけでは角が立った状態、ウェルトの革の断面もむき出しでは荒れてしまいますので、
角を取って、仕上げ材を塗布します
いかがでしたでしょうか。今回はリウェルト、オールソール交換のご紹介をさせて頂きました。
多くの人にとって、はじめての修理、そして最後の修理かもしれません。
しかし、モノを直して使うという考え方、そして何よりも仕上がりに感動が与えられれば、
また修理をお願いしてもらえるかもしれない。修理が当たり前って皆様に思ってもらえるように。